日本の英語教育について、現状分析と問題提起の論文を書きました。
少しずつ連載しますので、ご興味のある方はお読みください。
先生、ちゃんと英文法教えて! なぜ、日本人の英語力は二極化したのか
はじめに
この論文はだれのために
現在、日本人の英語力は二極化している。
ごく一握りの、英語が「できる」グループと、大勢の「できない」グループが分かれ、その差が年を追うごとに開いているのである。
日々、様々な方面から、声高に英語の必要性が叫ばれ、入試においても、仕事においても、日常生活においても、英語ができないことは不利であることが声高に叫ばれ、何とかしてできるようにしなければならないという切迫感が社会全体にあふれている。
本屋には英語教材があふれ、書籍だけではなく、ITソフト、ウェブサイト、英会話スクール等の英語教育機関は増加の一途をたどっている。そして、それらの内容、量、質、使い勝手は、世界に類を見ないレベルに進化していると言える。
これだけ多くの優れた英語学習教材、サポートが手近に存在するのであれば、少なからざる日本人(正確には、日本語を母語とする日本居住者)の英語力はとおの昔に、「できる」レベルに達していても不思議ではない。
事実、これらのサポートの助けもあってか、一部の日本人の英語力は飛躍的に伸びている。
しかし、その一方で、「なかなか英語ができるようにならない」という悩みを抱える日本人の数は増えこそすれ、減っている気配はない。
ひと言でいえば、「できる」人は、どんどんできるようになり、「できない」人は、いつまでたっても、様々なサポートがあっても、なかなかできるようにはならないのである。
なぜ、このような二極化が起きているのか。
日本人の英語力の二極化は、第二次世界大戦後、教育システムが現行のそれに移行した頃から始まっているのであるが、過去 10~20 年において急速に進行している。
しかし、一般社会だけでなく、英語教育の現場においても、何らかの問題があるということは気づかれてはいても、その問題の根幹にどのような問題が絡み合っているかについて明確な形で検討されることはまだ少ない。
ここでは、以下のことについて述べている。
① このような二極化が、どのような現象として現れてきているかに関する説明
② このような二極化が、いつから、どのような複合的な理由に基づいて、発生するに至ったのかの説明
③ このような二極化が、教育だけではなく、社会、文化、政治の各分野にどのような影響を与えているかに関する考察
さらには、
④ このような二極化を、どうすれば、解決することができうるかについてのヒントの提示
を行っている。
少しでも解決への糸口を探ろうとするものである。
以下、本編の目次とリンク
章タイトルの頭の「+」をクリックすると各章の項目が表示され、項目名をクリックすると内容が表示されます。
2. 二極化の現実:戦後80年、静かに進行してきた英語教育の格差問題とは何か
2-1. 何が起きているのか? 大学生の英語力の低下
2-2. リメディアル教育と(国公立)中学生、高校生の英語の実力
2-3. 現在の中学、高校生の英語の実力
2-4. 東大合格者に私立中高一貫校出身者が占める割合
2-5. 東大合格者の保護者の経済力
2-6. 二極化と、二つの異なったグループとコース
2-7. 断絶する格差
2-8. 知性の仕組みから見た様々な教育理論
2-9. 知性の仕組みに逆らった英語教育
2-10. 英語の苦手意識と自己否定
2-11. 不得意感から、自己否定へ
2-12. 「たてなおしの英語」の試み と 届かない助け
2-13. 問題解決の糸口は、専門家ではなく、当事者たる「学習者」自身
3. 英語ができるとはどのような意味か:誤解にまみれた「英語力という言葉に振り回される学習者
3-1. 「英語ができる」とはどのような意味か
3-2. 「コミュニケーション」という語の定義と多様性
3-3. 英語の実力レベル
3-4. 実力レベルの差の意味:どのような違いがあるのか
3-5. 英語の実力レベルの指標CEFRのレベル表 と難易差
3-6. 難易差の「質的差」:「文章を読み、書きできる」という基準
3-7. 学習文献、一般文献、専門文献と文法項目
3-8. 文法の全体像理解と精読、多読、語彙
3-9. 文法と文の複雑さ
3-10. 文法はジグソーパズル
3-11. 文法理解と精読はコインの裏表
3-12. 英語の基本学習において優先されるべき技能は「読み」「書き」:正三角形の底辺の長さ
3-13. 目指すべきは、B1以上の読解力
3-14. 読み書きの優先順位がなぜ誤解されるのか:「しゃべれる」とできるように見える
3-15. 基礎学力としての「読み書き」を優先させる必要性
3-16. 自転車と水泳訓練は何のために
3-17. これからの時代の英語の「読み書き」の力の必要性
3-18. インターネットでの世界とのつながり
3-19. 英語で「読み書き」できないことの危険性
4. 目標値の二極化
4-1. 学習指導要領の目標:文部科学省の言う「コミュニケーション力」
4-2. 指導導要領とCEFRレベル
4-3. 文科省の目標:中学生の平均は A1,高校生はA2(又はB1)
4-4. 経団連の意見:現状認識の誤り
4-5. これまでも目指してきた、「英会話ができるように」という目標:A下位グループの増加
4-6. Aコース(Aグループ)とBコース(Bグループ):Aグループの増加
4-7. Aコース(Aグループ)とBコース(Bグループ)の 相関図
4-8. 会話中心か、読み書き中心か
5. 学習地図の不在
5-1. 「学習」における目標達成の責任はどこに: 自転車にたとえると
5-2. 時間がたたないとわからない
5-3. 教育は、結果が見えるのに時間がかかる。
5-4. 時間差がないことを求める昨今の教育
5-5. 学習地図
5-6. 教師は学習地図を持っているはず
5-7. 学習迷子:学習者は、教師の持つ(であろう)学習地図に賭けるほかない
5-8. 学習迷子は、自分が学習迷子になっていることに気づきにくい
5-9. 沈黙する学習者
5-10. 保護者と学習地図
5-11. 学習地図はあぶりだし
5-12. 保護者の学習経験
5-13. 様々な学習地図:AコースとBコースの両立は困難
5-14. 英語力格差の責任はだれに?
5-15. 学習者は「英文法」の学習地図を示されているか
5-16. 「中学英文法」は「初歩」という誤解
5-17. 英文法の8割は中学で教えられていることを知らない
5-18. 英文法の何を、どのように学んでいるかについて、学習者は知らない
5-19. 隠されている英文法の学習地図:二種類の教科書:Progress と 検定教科書
5-20. 文法の解説の有無
5-21. 副詞節の例
5-22. 文法項目の位置づけ
5-23. 学習目標の明示: 「何を理解すべきか」という目標が分かる
5-24. 明確な目標と学習迷子の位置特定
5-25. 文法地図がないと、「何が分かっていないか」がわからなくなる
6. なぜ、異なった地図が生まれたのか
6-1. 知性の仕組み
6-2. 認識構造の説明
6-3. 質問の例:where、why
6-4. 「自前の知識」と「借りる知識」
6-5. 借りる知識
6-6. 借りる知識の例:算数、言語
6-7. 借りた知識を理解しなおして、自前の知識とする
6-8. 自前の知識として焼き直された知識は応用が利く
6-9. 自主学習と指導学習
6-9-1. ①「自前の知識」の「自主学習」
6-9-2 ②「借りた知識」の「自主学習」
6-9-3. 指導学習
6-10. 教育の役割
6-10-1. ②知識のデータを貸し出す助け
6-10-2. ③説明する:教育の第三の役割:データを理解できるように助ける
6-11. 教師の第三の役割が必要となる科目の典型は算数である。
6-12. 未消化な部分で崩れる積み木
6-13. 自前の知識も 助けを必要とする。
6-14. 言語は自主学習か
6-14-1. 幼児が母語を学ぶ:多くの部分が自主学習
6-14-2. 母語も、読み書きのレベルでは「指導学習」
6-15. 外国語(母語でない言語)習得は「自主学習」が可能か?:外国語を自主学習で身につける条件二つ
6-16. イマ-ジョン教育についての誤解
7. 英語学習における教師の必要性
7-1. 英語は学ぶに困難な言語:教師が必要
7-2. 構造が似ている言語
7-3. 言語間距離
7-3-1. 階段の蹴上
7-3-2. ①文法
7-3-3. ②語彙
7-3-4. ③発音とつづり
8. 「教えられ」てもできるようにならないのはなぜ?
8-1. 「提示」と「理解」:ベネッセ アンケートに見る教師と学習者の乖離
8-1.1. ベネッセ アンケート(教師)
8-1.2. ベネッセ アンケート:生徒
8-2. 文法についての教師と生徒との感じ方のギャップ
8-3. なぜ、「わからなく」なるのか?
8-4. 提示、説明、理解
8-5. 「説明」:「なぜ」を理解する助け
8-5-1. 「提示」「説明」しても「理解」が起こるとは限らない
8-6. 「理解」が起こりやすくするために、ヒントの必要性
8-7. 「提示」と「説明」:バケツで水を注ぐことと同じという誤解
8-7-1. 「理解を起こせる」という誤解は「教えること=考える力を奪う」という誤解へつながる
8-8. 「教えれば」自動的に「わかる」はず から 「わからない」学習者の糾弾へ
8-9. 質問するととがめられる:質問することは罪悪 という 誤解
8-10. 理解と習得
8-11. 「習得」するための助けの必要性
8-12. 「提示」「説明」「習得のための援助」についての4つのタイプ
9. 発達段階の問題: 描写と理論
9-1. 発達段階とはどのようなものか
9-2. 「具体的操作期」から「形式的操作期」への移行: 抽象的思考の度合いが高まる
9-3. 「具体的操作期」から「形式的操作期」への移行: 「描写的理解」から「理論的理解」へ
9-4. 描写的理解と理論的理解:鶴亀算と方程式
9-5. 理論的理解の発達には 専門用語の理解が必要: 専門用語―袋のラベル
9-6. 英文法の理解にも、「描写的理解」と「理論的理解」
9-7. 形式的操作期に入っていない学習者に理論的説明は可能か: 二つの考え方
9-8. 形式的操作期に未到達の生徒への対応 文法用語を積極的に使用する
9-9. 「抽象思考が高度になる段階」に未到達の生徒への対応 文法用語を使用しない
9-10. 「(英語圏の)幼児は、教えなくてもできるようになる」から、文法は教えなくてよい?
9-11. 方向違いの問題解決: ゲーム、カラフルなイラスト、身近な話題
9-12. 水遊びの楽しみと、水泳の楽しみ
9-13. 英文法がわからなくなり始める時期:中1の夏過ぎ
9-14. 高校、大学入試の壁: Aグループが中学から高校へ進学するときおこること
9-15. 丸暗記による英語授業
9-16. 暗記とは何か: 理解記憶と丸暗記
9-17. 幼児は丸暗記が得意
9-18. 丸暗記の英語学習は苦痛
9-19. あてずっぽう訳
9-20. 本を読むということ: 知識を増やすこと
9-21. AコースとBコースのまとめ
10. 二極化の歴史
10-1. 戦前、戦後の英語教育
10-2. 二つの「文法訳読法」
10-2-1. 「理解精読法」
10-2-2. 「和訳の丸暗記法」
10-3. A、Bコース指導と学習の手間と時間
10-4. 戦後、すぐに必要とされたのは、促成栽培のAレベルの英語
10-5. 二つの「文法訳読法」とA、Bグループの発生
10-6. Bグループの継続
10-7. Bグループの存在が明らかにされていれば、2極化は起こらなかったかも?
10-8. 二極化により起こってきた問題:中学と高校の接続
10-8-1. 二極化は、まず、中学のレベルで始まる
10-8-2. 高校では、学習地図の種類に沿って、三つのルートができていく。
10-9. 二グループが混在する高校:Oさんの物語
10-10. 中学で教えられず、高校で、「教えられていること」を前提とする:「わからない」の大合唱
10-11. 学習ナビゲーション① 学習者の立ち位置の把握と進み方指示
10-12. 学習ナビゲーション② 学習観の是正
10-13. 現状に目をつぶらざるを得ない教師たち
11. 現状についてのデータ不足と、認識のずれ
11-1. 文法は習得しているはず、という誤解
11-2. 小学校英語
11-2-1. 小学校の学習指導要領
11-2-2. 小学校英語は、A1レベルの定型句の口頭表現
11-2-3. 綴りと発音の関係
11-3. 綴りと発音の関係を指導しない理由
11-4. なぜ、文字嫌いになるのか?:つづりと発音の関係についての指導のなさ
11-4-1. 英語の発音とつづりの関係は複雑である
11-4-2. 同じ文字、異なる発音。
11-4-3. 異なる文字、同じ発音。
11-4-4. 英語の発音の歴史
11-5. フォニックスの必要性: 一つのルールがわかるだけで軽減する負担
11-6. 英語のつづりと識字率
11-7. 発音記号の指導
11-8. アクセントと母音
11-9. つづりと発音の関係の指導がないと起こること
11-10. 文字を教えない理由③ 英語専科でない教師の負担
11-11. 幼児向けのゲーム:小学生の幼児扱い
11-12. 小学校英語が目指しうるのはせいぜいA1
11-13. 小学校で、すでに二極化が起こりつつある
11-14. アクティヴ ラーニング:座学の軽視
11-15. 英語で学ぶ・指導する
11-15-1. 明治時代、西洋の知識を「英語で学んだ」時期
11-15-2. 自分の言語で大学教育を受けられるということ
11-15-3. 英語で読み書きすることの負担
11-15-4. イマージョン教育
11-15-5. CLIL: B1のレベルの英語が必要。なければ、重度の消化不良
11-16. 英語の授業を英語で行うということ
11-16-1. 教員の英語の実力
11-16-2. できるのは「指示英語」と「テキストの設問」
11-17. ネイティヴ スピーカー
11-18. CDがついていない検定教科書
11-19. 仕事を英語で
11-20. 学習する以前にはわからない、教師の良しあし
11-21. 指導のおかしさに学習者は気づきにくい
11-22. 競争のデータの少なさ
11-23. 教師を選べない
11-24. 教師間の教育方法の吟味
11-25. データをとらないことは、自己満足の指導が続く:薬の治験
11-26. 「すべて英語で行う」の建前と本音(私立学校)
11-27. 二極化を知らない教師: 現状の正当化
12. どのようなデータが必要か
12-1. (1)どこで英語を学んでいるか
12-2. (2)私立校を含む全国レベルで、CEFRの低いレベルを計測できる試験
12-3. (3)種類別試験
12-4. データをどのように集めるか
12-4-1. 解決策1: 既存の検定試験問題で、最低線を知る
12-4-2. 解決策2: 項目別試験
12-4-3. これらの試験を中学から学年単位で行う
13. どうしたらよいのか?
13-1. 高校の英文法授業
13-2. 精読 (Reading)の授業
13-2-1. 文法を説明しながら進める精読
13-2-2. 英文法を理解している学習者を主な対象とする精読授業
13-3. 予備校、塾
13-4. 文法書による学び直し
13-5. 本を読んで理解できない人
13-6. 大学でのたてなおし
13-6-1. 大学の授業時間の制約
13-6-2. 「大学で行うべきことか」、という縛り
13-7. 詳しすぎる説明と、不十分な説明
13-7-1. いつ、何を、どのくらい深く掘るか?
13-7-2. どの程度まで深く理解させるか:文法教育の必要レベルについての理解のずれ
13-8. 「たてなおしの英語」
13-8-1. 図とアニメーションを使用した文法解説
13-8-2. 絵本から、文字のない書物へ
13-8-3. くりかえして視聴できる授業録画
13-8-4. 授業録画
13-8-5. たてP(たてなおしの英語 文法解説音声付 Power Point)
13-8-6. 綴りと発音の仕組みについても解説
13-9. 遠隔授業
13-10. カーン・アカデミー
13-11. 反転授業
13-12. 「たてPプロジェクト」へのお誘い
13-13. 「たてPプロジェクト」:何とかしたいと考えている人々が協力するネットワークを構築するために。
13-14. おわりに: 声をあげよう「先生、ちゃんと英文法おしえて!」と